青嵐緑風、白花繚乱
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      1



 中間テストも何とか乗り越え、初夏の風はいよいよの鮮やかな緑に染まりつつあり。ツツジの名所が花の見ごろと紹介される中、温室ではないお庭の茂みにも、白や緋色のばらが生き生き咲き誇る頃合いを迎えて。

 「アジサイも蕾を見せつつありますよね。」
 「そういえば、
  アタシ 大手鞠ってずっとアジサイの一種だと思ってたんですが、
  実は別の花だそうですね。」

 実は、なんて言い方をすると花が素性を隠していたように聞こえますがと、自分でそうとフォローしたのは。やはりこの時期にお目見えするお花の“白百合”との愛称を冠せられておいでの、草野さんチのお嬢様で。彼女の一言へ、

 「え〜? わたしもてっきり。」
 「………。(頷、頷)」

 一緒にお弁当を食べていたお友達二人が、わたしたちもそう思ってましたとのお声や態度を見せるので、

 「でしょでしょ? あんなに似ていますものね。
  でも、名前は何だか桜の一種のようでもあるんで、
  私としてはそっちが気になって、何ででしょうかと訊いたら、」

 「訊いた?」

 繰り返したひなげしさんだったのへ、あわわと口許引き結んだ七郎次だったがもう遅い。別に責めたりはしませんが、冷やかしてしまうくらいはいいでしょうにと苦笑してしまう平八だったが、

 “昔の“シチさん”だったら、
  小粋にさらり流すことも出来たでしょうにね。”

 転生した“彼女”は記憶が戻ったのが最近だからか、気丈でおきゃんでもあるが、ことが不慣れな恋愛関係の事柄となると どこか純情なお嬢様なお顔になるところが、かつてとは大きに異なっており。うらやましいでげしょ?なんてな一言が出ない初心なところは、いっそ微笑ましいくらい。まま、執拗につつくつもりはハナからなかった ひなげしさんだったので、

 「判ってますよ。
  あのおヒゲの警部補殿、見かけによらずお花に詳しいのでしょう?」
 「…っ。」

 七郎次の様子が変わったことには気づいたが、そこまでをつなぐことはこちらさんにもまだ無理だったらしい、おぼこい仲間の久蔵が。今になって おおと小さな手を打って見せたのがまた、何とも幼な愛らしかったものだから。

 「……久蔵殿、何で御存知なのですか?」

 そうだったのかとの納得がいったことこそ不自然と感じたか、そこまでは何とか復活した白百合さんが訊いたところが、

 「惚気られた。」

 ぱくりと、ひじき煮を真ん中に巻いた出し巻き玉子をお口に放り込みつつ、あっさり言い放った紅ばらさんであり。彼女にしてみれば、さして面白いことでもないとの感慨からそんな淡々とした態度になったのだろが、

 「え? え?」
 「それって、まさか……?」

 後の二人がそれぞれに異なる感情から双眸見張って聞き返すのへ、

 「だから。」

 ウサギさんの絵がプリントされた柄つきのフォークで、きれいに面とりが為されてのゼリービーンズ型に形を整えられた、金時ニンジンの薄味煮をぶさりと突き通しつつ、

 「島田がな、
  アジサイだろうが大手鞠だろうが、
  どんな花を持って来てもシチの可憐さには敵わぬがと。
  言われずともなことを言いくさっておったのだ。」

 「…………っ☆」

 ありゃまあと、呆気にとられたところまではお揃いだったものの、

 “なに言ってますか、あのお人はもうっ!///////”

 事情が通じる相手だからって言ったって、そんな恥ずかしいことをべらべらと言うもんじゃありませぬと。真の心言なら尚更に、秘しててほしかったものか、赤くなったのが七郎次ならば、

 “久蔵だからこそ通じると思ってのこと、
  臆面もないお言いようなところが おタヌキさんですよねぇ。”

 単なる惚気に収まらず、そんな言いようをするなんて。やっぱりシチさんがお好きな久蔵が敵愾心を煽られようことは判ってたくせにと、ちょっぴり意地の悪い問答なことまでも読み取って、大人げのないことと呆れた平八だったのだったりし。

 「……?(どうした?)」
 「な、何でもありません。////////」
 「そうそう♪」

 どこかが食い違っていたが、ままそこもご愛嬌。そんなこんなと かあいらしい会話を交わしつつ、昼食中だった彼女らがいたのは、すっきりと晴れ渡った空の下。学園内の本校舎からは少しほど外れにある、野外音楽堂の観客席、石づくりのベンチにて、午後最初の授業が自習となっていたのでと、少し長い目の昼休みをご堪能中。天気予報では、先だって数日ほど降り続いた走り梅雨に引き続き、またしても台風がらみの強壮な雨雲がやって来るらしいという話だが、今日の関東は何とか穏やかな晴天とあって。あちこちの梢や茂みに萌える若葉の真新しい黄緑が、日陰でも目映いほどの発色を見せており。まだ衣替えには日があっての濃色のセーラー服姿の美少女らもまた、瑞々しさでは負けてはいませんと。色白な頬に緋色の口許に、甘く軽やかな笑み載せて、目映いばかりの笑顔で語らい合っておいで。

 「久蔵殿、そのフォークって。」

 もう大方食べ終え、そちらは構内の自販機で求めた緑茶にて口許を潤していた久蔵が、お膝に置いていた幕の内風のお弁当…を詰めてあった、塗りの弁当箱に添えていたのが、それへはちょっぴり相応
(そぐ)わぬ愛らしいカトラリー。マナーを知らない彼女じゃあないが、気を抜いての食事では、ついつい…箸がばってん使いになったりフォークを赤ちゃん握りしてしまう節があり。学園で食すお弁当も、この顔触れで食べるようになってからは、遠慮なく気ままなお作法であたっておいで。それでも今までは家にあったそれなのか、デザートフォークや小さめのスプーンを持って来ていたものが。今日は おニュウらしい可愛らしいのを持参した彼女であり。さっきから気になっていたらしい平八が尋ねれば、ニューヨークブランドらしき小粋なハンカチで、楚々と口許拭いていたお嬢様。紅色の視線をちらと上げると、

 「あいに貰った。」
 「これこれ。あいちゃん、ですよ? 久蔵殿。」

 ふふんと偉そうなのも筋違いだったが、そこへと も一つ別方向からの修正が入っていては世話はない。この母子コンビの斜めなところは相変わらずだなぁと、乾いた苦笑でもって一緒くたに微笑って差し上げたひなげしさんであり、

 「……あれ?」

 そんな彼女の細められた猫眸が“おや?”と半分開いたのは。今更 彼女らを正したくてじゃあなくって、

 「噂をすれば何とやらですね。」

 音楽堂の観客席は、固定された膝辺りの高さの座面が居並んでいて、駆け出すと危ない場所だけに。相手の姿を見てもすぐには近寄れぬ。ましてやこっそり近づくには、明けっ広げが過ぎて、対象の相手にも周辺にいた人へも素通しになるため。立ち聞き盗み聞きを恐れるならば、周囲に壁のある密室よりもこっちの方がむしろ安心だといえて。いくら何でも常からそこまで恐れて行動している彼女らではなかったが、こちらを見かけて駆け寄って来たお嬢さんがたがあったのへは、ちょいと蓮っ葉だった態度をこそこそと改めると、ほほと品よく微笑んでの待ち構えて見せる、お嬢様たち 御ン年十六 だったりし。

 「三木先輩、草野先輩、林田先輩っ。」
 「こちらにおいでだったのですね。」

 足元に用心しつつも、なかなか軽快に駆け寄って来たのは、今丁度名前が上がっていた、あいちゃんこと篠崎愛子ちゃんが率いる ガールズバンド“ガールズ4”の皆様で。昨年の夏休みの終盤に、ひょんな切っ掛けから知り合ったのが縁となり、バンドのミニライブを構えていた彼女らの、ローディ兼ボディガードをこなしたこちらのお三方だったりし。

 “あれ? じゃあやっぱりアタシら三年生じゃないと理屈が訝し……。”

 まあまあ、そこは ササァ〜〜〜ッと流してっ。
(苦…)

 「どうしましたか、お昼休みなのに。」
 「お昼ご飯は食べましたか?」

 こちらの顔触れは自習を控えてという余裕あってのこの行動。もちろん、予鈴が鳴れば教室へ向かうつもりじゃあいるけれど、多少は遅れても御免あそばせと、こういうときだけ悠長なお嬢様らしさを発揮する所存だったらしく。それとは条件が違わぬかとの案じを、白百合さんが差し向けたれば、

 「はい、食べて来ました。」

 私たち四限目が自習だったので、と。そちらさんもまた、そんな事情があったらしくて。ご配慮ありがとうございますとの含羞みを覗かせてから、さて。

 「あのあの、実はご相談があったのですが。」

 相変わらず、どこかジュウシマツみたいに いつも一緒の4人娘。ねえねえとか ほらとか、互いを急っつき合ってか、柔らかな身を押し合いへし合いさせて見せつつ。それでもまま、役回りはきっちり決まっておいでのお人たちでもあってのこと。あらためて口火を切った、ゆっこちゃんこと渡辺ゆうこちゃんが、

 「私たちの昨年の学園祭公演の映像、
  OGの○○○様がDVDにして下さったのです。」

 「おお、それはまたvv」

 コピーの楽曲には、版権問題もかかわるんじゃないかと思ったんだが、じゃあ結構有名どころの歌手の方々が、リサイタルなんかで他のアーティストの歌、カバーして歌ってるのはどういう扱いになってるんだろか。やっぱ、販売目的のDVDなぞでは大幅にカットしているものか、それかお相手と著作権協会とに許可を得ての使用なのかな? 作詞・作曲・歌唱もなさってるご本人が“どうぞ”と快く言った場合でも、この協会を通さねば“無断使用扱い”になるんですってね。何か変な理屈だなぁ…と、もーりんの感慨はともかくとして。

 「○○○様は、あの公演で歌った楽曲の関係筋と懇意になさってる方だとか。」
 「それに、広く販売するというのではなくて、
  希望のあった方への寄付型領布だとのお話でしたし。」

 著作権云々がどういう処理になっているのかは、詳しく知らないらしいお嬢さんたちなのへは、ちょみっと“おいおい”と思いつつ。それでもまま、確かな筋の大人がちゃんと付いていての領布だというなら、あとあと揉めるような素因を残しているというような恐れもないのだろうて。そこはやっぱり やんごとなき名士のご令嬢ばかりが集う学び舎、下手な儲け話を浅ましくも振り回す筋のお人は滅多には出ないということか…と。そういう方向でも世界が違うなぁと、実は庶民生活も結構御存知な七郎次と平八が 目配せし合いつつこっそり苦笑しておれば、

 「それであのあの、そのDVDに使われている映像なんですが。」

 彼女らのうち最も芯のしっかりしているリーダー格と、こちらのお姉様がたも加えての皆して認めておいでな ゆっこちゃんが。それでも少々おずおずとした態度になり、サラサラなボブの黒髪ののった頭ちょみっとうつむかせ。手に提げて来た紙袋から取り出して見せたのは、まだ装丁のなされてはいない、味も素っ気もない無地のまま。個人撮影したスナップ集を思わせる、1枚のDVD(ケース入り)であり。

 「一応はチェックをしたそうなんですが、
  それでもあの…お姉様がたがちらほら映り込んでいるんです。」

 「…おやまあ。」

 そういえば…というのも白々しいか。勿論のこと、後輩の彼女らが主体のライブじゃああったが、例えばバラードや情熱のソブレなど、それは見事にバイオリンを奏でた久蔵だったり、場内を盛り上げようとボーカルギターを手にステージを駆け回った七郎次だったり、ボーカルが一人では喉を潰しかねないからと、マイマイク持参で助っ人に立ってた平八だったりしたものだから。

 「誰へでもという店頭販売をされる品ならともかく、
  あの公演を観てのそれでほしいという人への領布なら、特に問題もありませんし。」

 何かあったらあったで、たとい○○○様でも容赦はしませんよと、恐ろしい但し書きを胸の底へ秘めた平八殿だったのへ、

 「どしました?」

 さすが鋭い七郎次が何か察したか声をかけて来たものだから、

 「でもでも、お顔が指す身になったらどうしましょうvv」

 誤魔化したな。
(笑) や〜んとわざとらしくも頬を押さえて見せたひなげしさんの様子へ、いやですよぉと釣られたように笑い掛かった白百合さんと紅ばらさんだったところが、

 「お顔が指すって、それはでもあの。」
 「???」

 いえあの、皆さん結構有名な方々ですのにと思って、と。選りにも選ってずんと意外なお人らから言われたもんだから、

 「え? え?」

 思わずなのだろ、言ってからあややと慌てて口をつぐんだ、ツインテールのきぃちゃんだったのへ。3人揃って驚いたように視線を投げてから、だがだが、こそこそっとサッチちゃんの背中へ隠れた彼女を問い詰めるのはよした…そのまま、

 「それってあれでしょうか、いつぞや引ったくりを捕まえたときの騒ぎでとか?」
 「いやいや、痴漢もどきを追い回した折のじゃあ。」
 「……路上販売の手伝いをしたアレかも。」
 「だってあれは、
  因縁つけてた奴…お人を追い払ったついでじゃないですか。」
 「それじゃないなら、迷子のお母さんを探した時の…?」

 思い当たりを次から次へ、あれだろうか いやいやこっちので目立ったんじゃあと、お互いにはきはきと挙げておいでのお姉様たちなのを見守りつつ、

  「…そ、そんなに沢山あれこれなさってたんだろか。」
  「私たちが聞いたのは、
   いつも待ち合わせなさってるお三人が、
   たくっさん人目を引いてたって噂でしたのだけれど…。」

 想定外もいいところな反応と、聞かない方がよかったかもな大胆極まりない荒ごとの数々だったため。ますますのこと“恐るべし、お姉様がた…”との認識を改めた、彼女らだったりしたそうな。
(笑)






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  *大手鞠はアジサイじゃなくてスイカズラの仲間だそうですね。
   素材屋さんのカットなんかで見かけて、
   あんまりそっくりなので一緒くたにしてましたが。
   咲く時期も、アジサイより少し早めながらも今頃なので、
   混同しておりましたが、別物だそうなので悪しからず。
   (ちなみに、この背景のお花も“大手毬”だそうです。)

   …………で。

   島田警部補と久蔵お嬢様が結構頻繁に言葉を交わしておいでなのは、
   ヘイさんのお見立てどおり、
   街なかなんぞで見かけるたんび、張り合うかのよにあれこれと、
   睦まじい逸話を聞かせておいでの警部補だからに違いない。

   「…大人げないですよ、勘兵衛様。」
   「そうは言うが、
    向こうは毎日逢っていて、しかも間近に居れるのだぞ?」

   そういうのが悔しいのなら、
   もっと頻繁にメールを送るとか、
   本人相手に頑張ったらいいんですのにと。
   微妙にお顔をしかめてしまった佐伯さんだったりしたそうです。


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